ディーゼルエンジン
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ディーゼルエンジン (diesel engine) は、ディーゼル機関(—きかん)ともいい、ドイツの技術者ルドルフ・ディーゼルが発明した内燃機関。1892年に発明され、1893年2月23日に特許を取得した。
シリンダー内でピストンが空気を高圧に圧縮して高温にし、そこに燃料を噴射することで自然着火させる構造を基本とする。
実用的な内燃機関の中ではもっとも熱効率に優れる種類のエンジンであり、また軽油・重油などの一般的燃料の他にも、様々な種類の液体燃料が使用可能である[1]。汎用性が高く、小型高速機関から巨大な船舶用低速機関まで様々なバリエーションが存在する。
エンジン名称は発明者にちなむものであるが、日本語表記では一般に普及した「ディーゼル」のほか、かつては「ヂーゼル」「ジーゼル」とも表記された。日本の自動車整備士国家試験ではジーゼルエンジンと呼称している。
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[編集] 仕組み
圧縮されて高温になった空気に軽油や重油などのディーゼル燃料を吹き込んだ時に起こる、自己着火(正しくは「発火」)をもとにした膨張でピストンを押し出す、超拡散燃焼である。理論サイクルの分類では、低速のものがディーゼルサイクル(等圧サイクル)、高速のものはサバテサイクル(複合サイクル)として取り扱われる。
- 吸入行程: ピストンが下がり、空気のみをシリンダー内に吸い込む行程。
- 圧縮行程: ピストンが上死点まで上がり空気を圧縮する行程。
- 膨張行程: 高圧のシリンダー内に燃料を噴射・燃焼し、燃焼ガスがピストンを下死点まで押し下げる行程。
- 排気行程: 慣性によりピストンが上がり燃焼ガスをシリンダ外に押し出す行程。
21世紀初めの現代の高速ディーゼルエンジンでは4ストローク機関が主流であり、航空機にまで使われたクルップ・ユンカース式対向ピストンエンジンや、GMのユニフロースカベンジング式など、第二次世界大戦以前から出現していた2ストローク機関は姿を消した。一方、極低速回転の大型船舶用は、上死点毎回爆発の2ストローク型(ユニフロー・スカベンジング・ディーゼル)が主流となっている。
燃料の噴射には高圧ポンプが使用され、燃焼方式の違いで、単室の直接噴射式と副室式(予燃焼室式・渦流室式)に分かれる。
ディーゼルエンジンは圧縮によって吸気を高温にする必要があり、高い圧縮比が要求される。圧縮比が高いために熱効率が良いと言われることが多いが、高すぎる圧縮比はエンジンにより高い機械的強度を要求し、そのために部品を丈夫にする必要が生じ、可動部品の重量のために機械的損失が大きくなる。自動車用4ストロークエンジンでは過給圧の高圧化が進み、過度に筒内最高圧力(Pmax)が上がるのを避けるために圧縮比は低下傾向にある。
ガソリンエンジンと異なり、過給をしてもノッキングやデトネーションが起こらず、圧縮比を下げる必要がないため、過給とは相性がよい。自動車用高速ディーゼルエンジンは、そのほとんどがターボ過給されるようになっている。ターボ過給をすることにより、排気エネルギーの一部を回収でき、効率が改善され、吸気量の増加に対する燃料噴射量の増量で、同じ出力をより小さい排気量、より低い回転数で発生することも可能となり、ディーゼルエンジンの高性能化が一気に進んだ。
従来、高速定速走行の頻度が高い高速バスやカーゴトラックには、古くからターボチャージャーが普及していたが、低ミュー路や、走行抵抗の大きい悪路での微・低速走行の機会の多いダンプトラックでは、レスポンスに優れ、扱いやすい排気量20リッター以上の、V型8気筒自然吸気エンジンが好まれてきた経緯がある。しかし、次第に厳しくなる排ガス規制の前に、各社とも排気量を11 ~ 13リッター程度まで落とし、エミッション低減デバイスとの親和性が高い直列6気筒エンジンに生産を絞り込んだため、排気量の大きなV8自然吸気エンジンは姿を消した。
[編集] 燃料噴射ポンプとインジェクター
従来型の燃料噴射装置は燃料の“加圧”と“制御”の両方を燃料ポンプで行う。このようなポンプを「ジャーク式」といい、燃料噴射量・タイミングなどがすでに制御された状態で加圧を行うタイプである。
システムは噴射ポンプ本体のほか、噴射量を制御するガバナーや、噴射タイミングを制御するタイマーが組み合わされ、これらはポンプの加圧能力と並んでエンジンの性能を決定する要素となっている。
制御の機構は遠心力や負圧を利用した機械制御が中心で、一部電子制御が採り入れられているものもあるが、大きな力のかかる加圧行為そのものを微細に制御しなければならないという構造上、その制御には限界がある。
[編集] 列型噴射ポンプ
「ボッシュA型」と呼ばれ、エンジンの気筒数分のカムとプランジャーが一列に並んだ、直列エンジンのような外観を特徴とする。
構造上部品点数が多く、高価で大型化しがちだが、噴射量が多く、気筒数の制約もないため、大型車両や船舶、産業用の定置型エンジンなどに使われている。
ガバナーからポンプ内に伸びるラックが、カムとプランジャーの間に置かれた、外周に斜めの溝を持つスリーブを回転(正転・逆転)させることで、溝に組み合わされたプランジャーの位置が変化(上下)し、その圧縮ストロークの変化で噴射量の制御(増減)を行う。
噴射時期の制御は、エンジンの回転を利用した遠心式のタイマーが、噴射ポンプ内のカムシャフトの位相を変化させることで行う。
カム周りの潤滑にはエンジンオイルが使われており、燃料と潤滑油が分離されているため、重油や粗悪燃料にも対応できる。
インジェクター(噴射ノズル)にはニードルバルブ(針弁)型が組み合わされ、副室式では単孔型、直接噴射式では多孔型が用いられる。
[編集] 分配型噴射ポンプ
「ボッシュVE型」と呼ばれ、1組の波型カム(フェイスカム)、プランジャー、スピル弁のみで構成され、各気筒に燃料を分配する。各気筒への高圧配管が同心円上に並び、ガソリンエンジンのディストリビューターに似た外観を持つ。
部品点数が圧倒的に少なく、全ての潤滑を燃料でまかなうなど、シンプルかつ合理的な基本構造を持ち、小型で安価である。乗用車からピックアップトラック、それらをベースとしたSUVのエンジンなどに使われている。構造上、噴射量や気筒数には限界があるが、中排気量の6気筒程度までなら十分対応できる。
噴射量の制御はスピル弁の開弁時期の変化で行い、噴射時期の制御はフェイスカムの軸を平行移動させて行う。
インジェクターはニードルバルブ型が組み合わされる。
VE型の改良版で、内接カムと2つのプランジャーを組み合わせたものもある。
ただし燃料の性状に敏感で、特に水分や灯油(炭素)分の多い不正軽油を使用すると潤滑不良による噴射圧力燃料噴射装置などの故障を招きやすい。
[編集] コモンレール式
最新の排出ガス規制に対応したディーゼルエンジンでは主流となる噴射方式で、「蓄圧式」とも呼ばれる。燃料の加圧はサプライポンプが行い、噴射制御は電子制御による電磁式インジェクターが行う分業となっている。
ディーゼルエンジンの歴史にコモンレールの名前が現れたのは、1910年代終盤のボッシュによるものが最初であるが、当時の開弁圧は90bar程度と低く、インジェクターの開弁も圧縮空気によるもので、そのためのエアーコンプレッサーを必要とした。1,800barを超える開弁圧と電子制御によるソレノイドやピエゾ素子を用いたインジェクターを備えた現在のコモンレールとは文字通り隔世の感があるが、基本的な原理は同じである。
環境対策としての現在のコモンレール方式を初めて実用化したのは日本のデンソーであり、伊藤昇平、宮木正彦を中心として、ECD-U2という名称で開発され、1995年末に日野ライジングレンジャーに搭載された。
1997年末にはボッシュで乗用車用が実用化された。コモンレールは、1960年代後半にスイスのRobert Huberがその原型を開発、スイス工科大学が中心となり研究が進んだ[2][3]。
金属製の頑丈なパイプ(レール)に高圧燃料を蓄えてから、各インジェクターで噴射を行うため、ポンプ側は無理なカムリフトや噴射制御から解放された。
電磁式インジェクターは開弁行為のみを受け持つため従来の噴射方式と比べ噴射時期の自由度が大幅に向上し、また1行程中に複数回の噴射が可能となるなど、NOxの発生を抑え、かつ、PMも少ない、完全燃焼のための理想的な噴射を実現する制御が可能となった。
ただし硫黄分や灯油(炭素)分の多い不正軽油を使用すると燃料噴射装置などの故障を招きやすい。
[編集] ユニットインジェクター式
メインポンプから送られた燃料の圧力を使い、パスカルの原理を応用し、インジェクター内で再度加圧する仕組み。
インジェクターごとに加圧機構を持つため、従来型の噴射ポンプでは不可能な高圧が簡単に得られることから、燃料の微粒化による完全燃焼が行え、燃費の改善に効果がある。フォルクスワーゲン・アウディグループが燃費最優先の考えでこの方式を選んだ。
日本では、電子制御コモンレール式の前段階の技術と見られていたが、日産ディーゼル一社のみは開発を続け、尿素SCR還元システムとの組み合わせで、平成17年排出ガス規制(新長期規制)に、大幅な前倒しで適合を果たしている。
[編集] ガソリンエンジンとの比較
メリットとして
- オットーサイクルのガソリンエンジンと比較して、圧縮時の筒内が空気のみであるため、プレイグニッション・ノッキングなどの危険がないことから高い圧縮比を維持できる。同じ理由でデトネーションの発生が予混合気を使用したエンジンと比べて低く、また、全域で排気圧が高いため、ターボチャージャーとの相性が良い。
- 空気過剰率が大きいため、作動ガスの比熱比が高く図示熱効率が高い(投入したエネルギーに対して燃焼ガスの温度上昇に使われる割合が高い)。
- 出力制御を燃料噴射のみで行えるため、出力制御のためにスロットルバルブが必要ない(自動車用はガバナー制御や吸気騒音低減のためスロットルバルブを持つ)。そのため絞り損失(吸気損失・ポンピングロス)が小さい。
- 部分負荷時の燃料消費率が低く、同じ仕事に対する二酸化炭素の排出量が少ない。端的には燃費が良くなる。これがヨーロッパでのディーゼルシフトの最大の要因であり、世界初となった燃費が3L/100kmの自動車の実用化もディーゼルエンジンなしでは困難であったと思われる。
- 高回転運転には不適(2.0l 4気筒の実用上限回転は4,800rpm程度)なため、同排気量あたりのガソリンエンジンと比較して表示上の最高出力は低い。しかしながら、実用トルクの発生回転数がガソリンエンジンに比べて低く、しかもフラットな特性であるため、むやみに回転を上げる必要が無い。実用回転域が下がることにより、機械的な損失が減り、燃費の向上にも寄与している。
- ガソリンエンジンには点火時の炎の伝播速度によりシリンダの直径(ボア)に限界があるのに対し、ディーゼルエンジンには限界が無いので大型化に適している。ガソリンエンジンでは、多気筒化で排気量を確保して高トルクを得るか、または、高回転化で出力を上げなければならないのに対し、ディーゼルエンジンでは1シリンダーあたりの大容積化が可能であり、構造が単純化出来る。また、大型化に適しており、大型化することにより熱効率が高まる。
- 2ストロークターボディーゼルとした場合、2ストロークの長所を活かし、過給で短所を補う事が出来る。
デメリットとしては
- 機関自体に高い強度と剛性が必要で、噴射ポンプやタービンなどの補機も加わるために質量が大きくなりやすい。
- 燃料噴射システムに高い精度、高い耐久性が要求されるため、コストがかさむ。
- 自己着火に必要な高温を高圧縮で作るため、小排気量エンジンの場合、エネルギー損失が多い(超大型では圧縮比が11~13程度で済むので効率が良い)。
- 高圧縮のため、振動や騒音が大きくなりがちである。
- 高圧の燃料噴射系の騒音が大きい。
- 脈動が大きく、吸排気系の振動や騒音が大きい(船舶用、コジェネレーション用では脈動を抑える為、アキュムレーターを備えた物もある)。
- 吸気管負圧を得にくいため、自動車において、それを動力源とするブレーキブースターなどをガソリンエンジン車と共用する場合、別途バキュームポンプが必要。
- 燃焼室内が空気過剰(窒素過多)で窒素酸化物が発生しやすい。
- 希薄燃焼域(軽負荷時は 30:1 から 60:1)での運転が多いために排気中の残留酸素が多く、酸化性雰囲気になる為、三元触媒が使えない。
- 拡散燃焼なので均一燃焼が難しく、黒煙や粒状物質(PM, パティキュレート・マター)が発生しやすい。
- 高地など気圧の低いところでは更に不完全燃焼による黒煙が多くなる。
- 従来の後処理デバイスではガソリン車より有害排出物が多いため、現在の日本や米国の法制度では、ヨーロッパ製のディーゼル車も排出ガス規制を満たしていない。
などが挙げられる。
[編集] 主な用途
大型自動車(トラック・バス)や、鉄道車両(ディーゼル機関車・気動車)、建設機械、農業機械(主に耕運機、トラクター、コンバイン、ごくまれに管理機や6条植以上の乗用田植機)、潜水艦を含む船舶、内燃力発電などのエンジンに利用される。また加えてガソリンに比べて引火爆発の危険が少ない燃料を用いる事や、複数の燃料(マルチフューエル)で運転が可能なことから、戦車や軍用車両にも用いられている。
[編集] 船舶
大型船舶では、重油を燃料とし、100rpm程度の低速で回転する、巨大なユニフロー式2ストロークディーゼルエンジンが主流となっている。
外航船舶として本格的な成功を収めた最初のディーゼル船は、1912年にB&Wの1000HPエンジン2基を搭載して建造されたデンマーク船「シェランディア」である。その後、第一次世界大戦での潜水艦用エンジンへの導入をきっかけとして、1920年代以後は一般の軍艦・商船にも普及が始まったが、石炭や粗悪重油でも使用可能な蒸気ボイラーで作動する蒸気レシプロ船・蒸気タービン船を駆逐するまでには至らなかった。1950年代以前の船舶用大型ディーゼルは燃費は優れるものの、高品質な重油を使用する必要があったからである。
しかし第二次世界大戦後、燃料としては最も粗悪な部類に入る「C重油」を予熱することで使用可能な低速ディーゼルエンジンが出現し、特に商船用のエンジンとしての圧倒的な経済性で蒸気タービン機関に取って代わった。軍用艦船では重油焚きタービンや原子力、ガスタービンなどを用いる例も見られるものの、民間商船ではほとんどが高効率な低速ディーゼルを用いている。その熱効率は50%に迫る[1]。
一方、高速艇やプレジャーボート、漁船などの比較的小型な船舶では、自動車同様に軽油を燃料とする4ストロークの高速ディーゼルエンジンが使われており、自動車用と共通のエンジンが使われているケースも多い。
[編集] 鉄道
[編集] 自動車
詳細はディーゼル自動車を参照
日本では、ディーゼル燃料がガソリンに比べて税制上安価(おおむねレギュラーガソリンの70%程度の価格)であり、経済性を優先する商用車(トラック、バス※1、※2、ライトバン)などにディーゼル自動車がみられる。(しかし、2008年現在の日本では、原油価格の高騰後にあまり値段が下がらず、燃料価格面での優位性は下がっている。)
欧州では、大型車や商業車への普及に加え、乗用車でも新車販売台数の約43%がディーゼル車(2006年)である。米国では、乗用車市場におけるディーゼル車のシェアは0.5%(2005年)である。
モータースポーツでのディーゼルエンジンの登場は古く1952年のインディ500でディーゼルエンジン車がポールポジションを獲得している。2006年には、ディーゼルエンジンを搭載したアウディ・R10がル・マン24時間レースに出場し初優勝した。同じ燃料タンク容量でガソリンより軽油が10%保有エネルギーが高い燃料密度のトリックを利用した結果である。ピットイン回数が1割低減でき、タイムロスが減る。
WTCCでもディーゼルエンジン車は活躍しており、セアトのレオンは優勝もしている。他メーカーもディーゼルエンジンでの参戦を検討しているようである。
[編集] オートバイ
近年いくつかのメーカーがディーゼル二輪車を生産、販売している。イギリス陸軍ではKawasaki製オフロードバイクにディーゼルエンジンを搭載し運用を開始した。これにより陸軍車両燃料の軽油化を完了したとしている。
[編集] 航空機
1920年代以降に開発された大型飛行船のLZ129ヒンデンブルグ号やLZ127グラーフ・ツェッペリンは、逆回転可能なディーゼルエンジンによりトラクタープロペラを駆動していた。カムシャフト上のギアを変えることにより回転方向を変えることができる。全出力からエンジン停止、逆回転させて全出力までの時間は60秒以下であった。大型飛行船は固定翼航空機と異なり、瞬間的な挙動を要求されず、中速クラスの可逆回転ディーゼル機関を利用することも容易であったが、1930年代末期の硬式飛行船そのものの衰退で、それ以上の発展を見なかった。
飛行船以外の固定翼式航空機において、最初にディーゼルエンジンが試されたのは1930年代で、多くのメーカーがエンジン開発を試みた。実用に供された代表的なものとしてはパッカードの空冷星型エンジン(黒煙排出や強度面の欠陥により早期に市場から淘汰された)や、ユンカース ユモ205などがあり、特に後者は一定の成功を収めたが、第二次世界大戦において軍用用途には適さないと判断され、主流とはなり得なかった。戦後のユニークな提案としては複雑なネイピア ノーマッドエンジンがあるが、これも普及には至らなかった。
概してディーゼルエンジンは、レシプロ式のガソリンエンジンや、ケロシン燃料のターボプロップエンジンに比べ、強度確保の制約によってパワーウェイトレシオに優れないことが、重量制限の厳しい大型航空機での使用を妨げてきたと言える。
ヨーロッパでは航空機用ガソリンのコストが非常に高く、自動車でのディーゼル技術の進歩により、1980年代以降、小型プロペラ機向けの航空機用ディーゼルへの関心が復活している。この結果、既にディーゼルエンジン搭載小型機の実用例が生じ、他の複数のメーカーもエンジンや航空機の開発を行っている。その多くがジェット燃料もしくは自動車用軽油など、市場で入手容易な燃料を使用しているのも特徴である。高いパワーウェイトレシオを得るために「エアロディーゼル」と呼ばれる航空用途に適化した新しいエンジンの開発が進められている。一例としてイギリスのDair2ストロークディーゼルが挙げられ、これは対向ピストン式エンジンである。
[編集] 環境への影響と対策
あらかじめ空気とガソリンを混合して圧縮するガソリンエンジンと異なり、温度の上がった空気の中に燃料のみを噴射する拡散燃焼の原理上、着火から燃焼が均一にならないため、黄色い火炎の燃焼となり、PMや黒煙を発生しやすいことが欠点である。また、内燃機関の燃焼時には、筒内の温度と圧力の急激な上昇による窒素酸化物 (NOx)の発生が避けられないが、大量の空気を取り込むディーゼルエンジンでは燃焼室内の窒素量が多く、NOxの生成量も多い。
さらに、部分負荷域(パーシャルスロットル)での空燃比は30:1から60:1と希薄となるため、排出ガスは酸素過多の状態となり、排出ガス浄化のための触媒である三元触媒が有効に働かない(ガソリンエンジンでは理論空燃比で燃焼させた場合、同触媒により炭化水素 (HC)・窒素酸化物 (NOx)・一酸化炭素 (CO) を同時に浄化できる)。
現在では吸気時に噴射し、青い火炎で燃焼する、「予混合燃焼」の実用化が進んでいる。
[編集] NOxと黒煙
何れも排出ガスにまつわる問題であるNOxと黒煙とは、二律背反の関係にある。
高圧噴射で少量の燃料を完全燃焼させ黒煙を防ごうとすると、高温・高圧下で筒内の窒素(空気)よりNOxが生成されてしまう。したがって、ガソリンエンジンと比べてより多くの空気(窒素)を吸い込むディーゼルエンジンは黒煙の処理においても不利となる。燃焼時間を伸ばし、温度と圧力のピーク値を抑えるとNOxの生成は減らせることは分かっていたが、従来の一回吹きでは燃料過多となり燃え残りが増え、黒煙がきわめて多くなる。当然燃費も悪化し、本来排出が少ないはずのCO2のみならず、COとHCも格段に増えてしまうため本末転倒となってしまう。少量の燃料を数回に分けて噴射するコモンレール方式(後述)が考案されたのはこのためである。
[編集] 硫黄とSOx
ディーゼル燃料(軽油)には硫黄が残留している。そのためディーゼルエンジンでは有害な硫黄酸化物 (SOx) が排出される。また、触媒表面に付着した硫黄成分は排気ガス浄化のための触媒機能を阻害する。欧州で使用される軽油が低硫黄分の北海産原油を原料とすることが多いのに対し、日本で使用される軽油は高硫黄分である中東産原油を原料とすることが多く、欧州に比べ脱硫レベルは低かった。
日本では従前、産業用として安価であることが優先される軽油と重油では高レベル脱硫が行われず、酸化触媒の普及も進まなかった。このことは、ディーゼルエンジンによる大気汚染拡大にも関係していた。脱硫に関しては2004年末、自動車排出ガス規制に関連する「自動車燃料品質規制値」の変更が行われ、軽油に含まれる硫黄の許容限界は、従来の0.01%質量以下から0.005%質量以下へと改められた[2]。
硫黄分には潤滑作用があるため、脱硫後の燃料油には潤滑剤が添加される。
脱硫した際に出来る副産物からさらに硫黄を単体として取り出すことも出来、様々な薬品や工業製品の原料として使われる。日本に限って言えば、国内で使われている硫黄は全て中東から運ばれた原油から脱硫した際に取れる硫黄である。
[編集] 関連する法規制
日米欧の各地では、ディーゼル自動車に対する環境規制が行われている。
詳細はディーゼル自動車を参照
[編集] 排出ガス処理
排出ガス処理技術は、できるだけ低温・低圧で燃焼させることでNOxの発生を少なく抑え、酸化触媒やDPFによりPM、CO、HCを処理する方法と、できるだけ高温で完全燃焼させることでCO、HCの生成を抑え、その結果増加するNOxは尿素により還元処理する尿素SCR還元システムの二つに落ち着きつつある。
前者は乗用車用の小型のものから大型のディーゼルエンジンにいたるまで、現在の主流となっている。後者は大型トラック用ディーゼルエンジン用として日産ディーゼルが開発を進めたもので、三菱ふそうトラック・バスも一部の車種に採用した。
そのほか、燃料の改質によりNOxを減らす方法がある。ジメチルエーテル混入、水エマルジョン燃料など、様々な研究があるが、供給体制の整備や、使用者が補給を怠った場合の対策などの問題があり、大規模な実用化は進んでいない。
[編集] 微粒子除去装置
(DPF・酸化触媒) 「DPF(Diesel Particulate Filter)」は、ディーゼルの排気ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕らえるセラミック製のフィルターのこと。 微細な穴により粒子状物質を捕らえる。 白金など貴金属を含む触媒物質を塗布してあり、排気ガスが300度以上の高温の場合、触媒が粒子状物質に対し即座に化学反応が起こり、粒子状物質は無色無臭の気体に変化し排出される。
DPF内の粒子状物質堆積による強制再生等も必要であるが、これは運転状況によって異なる。
触媒の多くは硫黄に弱く、フィルターの目詰まりの原因となるため、低硫黄化された軽油以外(不正軽油など)の使用はできないが、フィルターにセラミックを使わず、金網と炭化珪素繊維を用いた製品もあり、こちらは低硫黄軽油以外も使用可能である。
[編集] 尿素SCRシステム
詳細は尿素SCRシステムを参照
排ガス中のNOxをアンモニアと反応させて、窒素と水に還元する浄化触媒。
幅広い排ガス温度領域でNOx還元性能が高い。尿素水の補給とシステム全体の取り付け場所の問題あるが、大型トラック等においては実用化されている。
[編集] NOx吸蔵還元触媒
排ガス中のNOxをリーン燃焼時に取り込み、その後にリッチ燃焼で還元させる触媒、筒内直噴ガソリンエンジンで採用されていた。
一般的に直噴ガソリンエンジンでは三元触媒、ディーゼルエンジンではDPFと組み合わせて使用される。
乗用ディーゼルエンジン用としては、欧州仕様アベンシスで採用されているPMとNOxを同時に還元するトヨタのDPNR、米国排ガス規制をクリアしたホンダの触媒内でアンモニアを生成してNOxを還元する2層式NOx吸蔵還元触媒、またベンツは尿素噴射を行わない尿素SCR還元システムにNOx吸蔵還元触媒を組み合わせている。 日産はホンダの2層式NOx吸蔵還元触媒に似た新型触媒を開発、2008年に国内販売する車両に搭載すると発表した。
NOxを還元するのにリッチ燃焼が必要な事と、軽油内の硫黄分が触媒の機能を奪うのが欠点である。
燃料を完全燃焼に近づけることができれば、排出ガスの黒煙は低減される。燃料噴射装置を高圧化し高度に制御することが試みられている。
[編集] 次世代燃料の試み
[編集] FT軽油
エミッション低減の足かせとなる鉱物油由来の燃料に代わり、次世代のディーゼル燃料として注目されているのが、FT(Fischer Tropsch, フィッシャー・トロプシュ)合成油である、GTL(Gas To Liquid, ガス・トゥー・リキッド)燃料、BTL(Biomass To Liquid, バイオマス・トゥー・リキッド)燃料、CTL(Coal To Liquid, コール・トゥー・リキッド)燃料である。これらの燃料は、単体で、あるいは軽油に混合してディーゼルエンジンに使用することで、エミッションの低減が期待できる。
GTL燃料の原料は天然ガス、CTL燃料は石炭であり、軽油に比べセタン価が高く、SOxの原因となる硫黄分やPMを発生させるベンゼン・キシレンなどの芳香族炭化水素をほとんど含まない。常温でも液体のため、CNGや水素とは異なり、従来のインフラがそのまま生かせる点も大きなメリットとなる。ただし、硫黄が含まれないことから、潤滑作用の点で軽油に劣るため、添加剤で対応する必要がある。
一方BTL燃料は、植物を原料とし液体燃料として合成したもので、GTL・CTL燃料の性質に加え、燃焼時に排出されるCO2は植物が生長する際に吸収したCO2量と等しいとされることから、カーボンニュートラルとみなされ、京都議定書の目標達成には非常に有効となる。葉や茎など、植物全体を原材料としたセルロースから作られるBTL燃料は、植物の種子から得られるデンプンを元にした植物油燃料(BDF/バイオ ディーゼル フューエル、SVO/ストレート ヴェジタブル オイル)に比べ、植物の質量あたりのエネルギー量は2倍、同じ耕地面積から得られる収穫量は10倍以上と言われる。雑草などを原料にできるため、食物価格の高騰や、水不足の問題を解決する一助ともなる。
これらのFT燃料は、生産量の増加に伴い価格も下がっていくと見られており、今後のディーゼル燃料の主流として期待されている。 高セタン価燃料であるため、単体専用ディーゼルエンジンとしてなら圧縮比を13–15へと低圧縮比化でき、エネルギー効率を上げ低燃費化できるのも利点である。
[編集] DME
詳細はジメチルエーテルを参照
ジメチルエーテル (DME) をディーゼル燃料として使う事も実用化されつつある。メタノールを脱水縮合反応合成してエネルギー密度を上げる方法ではなく、合成ガスからの直接合成による低純度低価格な大量生産が確立しつつある。原料として天然ガス、石炭、植物など合成ガス化できるものなら良く、有酸素燃料でFT軽油より合成エネルギー損失が少ないのが利点である。
DME燃料は軽油と同等のセタン価で、硫黄分や芳香族炭化水素を含まない。機械式燃料噴射では低圧で体積変化するため噴射量制御が難しかったが、コモンレールで高圧化された事により噴射量制御が正確になり、適した燃料となった。
[編集] BDF
詳細はバイオディーゼルを参照
植物油をエステル化してグリセリンを除去し脂肪酸メチルエステル (FAME) とした燃料 (Bio Diesel Fuel ; BDF) である。
[編集] BHD
油脂を水素化処理技術を応用して分解して作る水素化処理油 (Bio Hydrofined Diesel ; BHD) である。
[編集] 製造者
[編集] 日本のメーカー(2007年現在)
- 井関農機 産業用・農業機械用
- いすゞ自動車 乗用車・商用車・産業用・舶用
- 三菱ふそうトラック・バス 商用車・産業用
- 日野自動車 商用車・産業用
- 日産ディーゼル工業 商用車・産業用
- トヨタ自動車 乗用車・商用車・産業用
- 日産自動車 乗用車・商用車用
- 本田技研工業 乗用車用(現時点では海外のみだが、日本国内にも近々投入予定)
- マツダ 乗用車(海外のみ)・商用車用
- 富士重工業 乗用車用(2007年現在海外のみ・乗用車用水平対向ディーゼル2008年から欧州投入)・産業機械用
- 三菱自動車工業 乗用車(海外のみ)・商用車用(海外のみ)
- ダイハツ工業 乗用車用(海外のみ)
- スズキ 乗用車用(海外のみ)
- ヤンマー 産業用・農業機械用・舶用
- クボタ 産業用・農業機械用・舶用
- IHIシバウラ 産業用
- 小松製作所 産業用・舶用・鉄道車輌用
- 三菱重工業 産業用・農業機械用・舶用
- 川崎重工業 産業用・舶用
- 三井造船 産業用・舶用
- 日立造船(日立造船ディーゼルアンドエンジニアリング) 産業用・舶用
- IHI(ディーゼルユナイテッド) 産業用・舶用
- 新潟原動機(旧新潟鐵工所) 産業用・舶用・鉄道車輌用
- 神鋼造機 産業用・舶用
- 赤阪鐵工所 産業用・舶用
- 阪神内燃機工業 産業用・舶用
- マキタ 産業用・舶用
- ダイハツディーゼル 産業用・舶用
[編集] 欧米のメーカー
- MTU(独)
- プジョーシトロエン・モトール(PSA・プジョーシトロエングループのエンジン製造を担当。仏)
- キャタピラー(米)
- カミンズ(米)
- シス(フィンランド)
- スカニア(スウェーデン)
- ズルツァー / スルザー(現バルチラ、フィンランド)
- ダイムラー(独)
- メルセデス・ベンツ(独)
- ドイツ(独) (de:Deutz AG)
- ナビスターインターナショナル(en:Navistar_International_Corporation、米)
- パーキンス(英)
- ボルボ(スウェーデン)
- マン(独):ディーゼルエンジンを開発したルドルフ・ディーゼルを擁していた。
- ルノー(仏)
- バーマイスター&ウエイン/B&W(デンマーク)後にマンに吸収されている
- バルチラ(フィンランド)
[編集] 基幹部品メーカー
[編集] 関連項目
- 熱機関
- エンジン
- グローエンジン
- レシプロエンジン
- ロータリーエンジン
- ユニフロー掃気ディーゼルエンジン
- ガスタービンエンジン
- 脱硫 - 水素化脱硫
- NOx吸蔵還元触媒
- 尿素SCRシステム
- 自動車NOx・PM法
- バイオディーゼル(大豆油、菜種油)
- ディーゼル自動車
- ディーゼル・エレクトリック方式
- 舶用機関
- 気動車(鉄道用ディーゼルカー)
- ディーゼル機関車
[編集] 参考文献
- Diesel, Rudolf: Die Entstehung des Dieselmotors. Erstmaliges Faksimile der Erstausgabe von 1913 mit einer technik-historischen Einführung. Moers: Steiger Verlag, 1984.
- ルドルフ・ディーゼル著 / 山岡茂樹訳・解説: ディーゼルエンジンはいかにして生み出されたか.東京: 山海堂 1993.8
- Rauck, Max J.: 50 Jahre Dieselmotor : zur Sonderschau im Deutschen Museum. München: Leibniz-Verlag 1949.
- ^ ディーゼルは微粉炭を含む様々な燃料の使用を意図していたが、当初計画された微粉炭燃料の使用は成功しなかった。1900年のパリ万国博覧会ではピーナッツ油での運転を実演した(バイオディーゼルを参照)ように、液体燃料であれば相当に広範囲な種類の燃料を使用可能である。
- ^ ECD-U2 - 日本の自動車技術180選
- ^ デンソーテクニカルレビュー Vol.7 No.1 2002 (PDF)
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